経済産業省のDXレポートで言及されて以降、中小企業の大きな課題となっている「2025年の崖」。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、この課題を乗り越えるための重要な戦略であり、特に組織内の「暗黙知」を「形式知」に変換し、活用することが鍵となると言われています。本記事では暗黙知を形式知化するための5つのステップとRAGを利用したその活用例を解説します。目次暗黙知と形式知の基本概念暗黙知とは、個人の経験や勘に基づく知識で、言語化や文書化が難しいものを指します。対して、形式知は言語や文書、データなどで明確に表現された知識です。暗黙知を形式知化し、さらにそれを活用することは「知識の共有と継承が容易になる」「業務の効率化」「データ分析やAI活用の基盤となる」などの理由からDX推進において重要視されています。参考記事:中小企業が備えるべき2025年の崖対策:「暗黙知の形式知化」暗黙知の形式知化を進める5つのステップ暗黙知を形式知に変換するプロセスは、組織全体の知識共有と業務効率の向上に大きく寄与します。以下の5つのステップを通じて、効果的な形式知化の方法を解説します。1.暗黙知の特定組織内でどの知識や技術が暗黙知に該当するかを特定します。業務プロセスや各部門の活動を詳細に分析する特に重要なスキルやノウハウを持つ従業員やチームを見つける組織の目標や戦略に照らして、最も価値がある知識を評価する2.ヒアリングと観察専門知識を持つ従業員にヒアリングを行い、実際の業務プロセスを観察します。知識や技術の習得方法、日々の業務での活用方法を聞き出す業務の流れや具体的な行動を記録し、暗黙知を具体的に理解する言葉で説明するだけでなく、実際の行動も観察することが重要3.デジタル化と構造化ヒアリングや観察で得られた情報(暗黙知)をデジタル化し、構造化します。動画や音声記録をテキスト化する重要なポイントを抜き出してマニュアルやガイドラインとしてまとめる情報をデータベースに登録し、アクセスしやすくする情報の見やすさや検索しやすさを考慮する4.形式知の検証と改善形式知として文書化やデータ化された情報を実際に利用し、有効性を検証と新たな課題の改善を行います。ドキュメントやデータベース内容が正確かどうか、実務に役立つか確認する従業員からフィードバックを収集し、情報を改善する意見や提案を反映させて形式知の質を向上させる5.活用と更新最後に、形式知を組織全体で共有し、実際の業務に取り入れます。社内教育プログラムや研修で形式知を浸透させる定期的な見直しと更新システムを整える組織全体で継続的な学びと改善を通じて形式知の有用性を維持するこれらを自社だけで完結することが難しい場合があります。積極的に、専門家や地域のITベンダーにサポートを受けながら、段階的に進めていくと良いでしょう。参考記事:DXの推進に地域ITベンダーの伴走支援が必要とされる理由とはRAGやAIを利用した形式知の活用形式知化された暗黙知を効果的に活用するために、最新のAI技術とRAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用することができます。RAGの仕組みと利点RAGは、検索拡張生成と呼ばれる技術で、自社に蓄積された大量の業務文書や規定などの社内情報や、外部の最新情報を活用する手段です。RAGの仕組みは以下の2つのフェーズから成り立っています。検索フェーズ:ユーザーの質問に関連する文書を外部データから検索・取得します。生成フェーズ:検索で得られた情報を基に、大規模言語モデル(LLM)が回答を生成します。引用:野村総合研究所(NRI)|RAG|用語解説RAGを活用することで、以下のような利点が期待できます。社内の形式知化された暗黙知を効果的に活用最新の外部情報と組み合わせた回答が可能AIの「ハルシネーション」(事実に基づかない回答)を低減形式知の具体的な活用方法RAGとAIを活用した形式知の具体的な活用方法には、以下のようなものがあります。社内ナレッジベースの強化形式知化された暗黙知をRAGシステムに組み込むことで、社員が必要な情報を素早く正確に取得できるようになります。カスタマーサポートの向上顧客対応の暗黙知を形式知化し、RAGシステムに統合することで、新人でも熟練者レベルの対応が可能になります。製品開発プロセスの最適化過去の開発経験や失敗例を形式知化し、RAGで活用することで、効率的な製品開発が可能になります。社内文書の活用PowerPoint、Excel、PDF等の様々な形式の社内文書に蓄積された暗黙知を、RAGを通じて効果的に検索・活用できます。関連記事:総務部門をデータドリブンな戦略部門へ!生成 AI×DX 推進で業務変革形式知化における注意点と課題暗黙知を形式知化するにあたり、以下のような注意点や課題があります。暗黙知の形式知化は2025年の崖を乗り越えるために、また、DX推進のための重要な要素となりますので、しっかり対策をしながら進めていきましょう。プライバシーとセキュリティへの配慮個人情報や機密情報の取り扱いには注意が必要です。また、セキュリティ対策を徹底し、情報漏洩を防ぐことが重要です。従業員の理解と協力プロジェクトの目的や重要性を従業員に説明し、協力を得ることが大切です。従業員が積極的に参加できる企業風土・環境を整えることで、暗黙知の形式知化プロジェクトを円滑に推進することができます。継続・更新・改善定期的な見直しと更新の仕組みを整備することが重要です。常に最新の情報を反映し、形式知を持続的に改善していくことが求められます。技術と人間のバランスデジタル技術に依存しすぎず、人間の直感や経験も重視することが必要です。暗黙知の形式知化は知識をデータ化するプロジェクトです。専門的な知識を保有する従業員には最大限の敬意を払うようにしましょう。また、技術と人的資源のバランスを保つことで、効果的な形式知化が実現できます。まとめ暗黙知の形式知化とその効果的な活用は、中小企業のDX推進において非常に重要です。本記事で紹介した5つのステップ、およびRAGやAIを活用した具体例を参考に、自社の状況に合わせて構築と実践を進めていきましょう。この取り組みにより、「業務効率の大幅な向上」「組織全体での知識共有と学習の促進」「データとAIを活用した意思決定の実現」「継続的なイノベーションの創出」などのメリットが期待できます。2025年の崖を乗り越えデジタル時代を勝ち抜くために、今すぐ暗黙知の形式知化とその活用を検討していきましょう。自社の強みを明確化し、競争力を高めるこの取り組みが、DX推進の大きな一歩となります。growvisionの伴走支援growvisionのDX推進伴走支援サービスは、暗黙知の形式知化や、RAGの導入に向けたロードマップを作成、生成AIの活用など、伴走してご支援いたします。さらに、DX化の取り組みは一度きりのプロジェクトではなく、段階を追って実現していく継続的な取り組みですので、プロジェクトの実施だけでなく、従業員のデジタルスキル向上のための教育や運用支援、短期・中期・長期とフェーズ毎の経営戦略におけるビジョン策定まで伴走することで、持続可能なDX推進体制の確立をご支援します。